ミラベルと魔法だらけの家 感想・考察 異端児は家族を再生へと導く

 

 

1.あらすじ

コロンビアの奥地にある町「エンカント」。村の屋敷「カシータ」に住んでいるマドリガル家の住人は、みんな魔法の才能(ギフト)を5歳の誕生日に授けられる。でもミラベルだけはギフトをもらえなかった。家族の中でコンプレックスを抱く彼女は、ある日カシータに亀裂が入るのを目にする。家と魔法の力が弱まっていると気づいたミラベルは、原因を突き止めようと奔走する

 

 

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引用元:https://www.disney.co.jp/movie/news/20210719_01.html

 

 

2.感想・考察

楽しいマドリガル

田舎の名家の崩壊と再生が、南米のカラフルな世界観によってファンシーに描かれていた。特に前半は、地方にある歴史の古い家や大家族、または地域を問わず一定の社会水準以上の家にありがちな闇が煮凝ってる。

 

家族の長アルマの姿勢がそれを特に物語っていた。家族の問題を周囲にひた隠しにして、すばらしい家庭を演出する。完璧ではない姿を見せるのは恥だとみなして、家族の体裁を守るためには個人に多少の犠牲を強いてもやむを得ないと思っている。愛情は伝わるから、みんなアルマに逆らえない。こうして築かれた虚像は、孫たちを追い詰めている。

 

力もちのルイーサは、常に強くなければと自分を追い詰めながら魔法の力が弱くなるのを恐れている。姉妹で一番きれいで花を咲かせるイザベルは、いつも美しく愛らしくいることを求められ、自分らしさを出せない。天気を操れるペパは自分の感情を無理やりコントロールしようとしてストレスをためているし、聴力の魔法が使えるドロレスは否応なしに情報が聞こえてしまうのをイザベルの婚約者への愛と共に秘めている。

 

他の家族も描かれてないだけで、多かれ少なかれ色々抱えているのだろう。それでも鬱屈を押し込んで毎日明るく振る舞い、魔法(ギフト)で村を支える。それがマドリガル家のあるべき姿だから。

 

異端児の「普通」の少女ミラベル

魔法(ギフト)を授けられなかったミラベルは、家族の中では異質な存在。社会奉仕や一族の繁栄といった責務を負わされない代わりに、自尊心を傷つけられ劣等感を抱えている。愛されていても、一族の血を引きながら魔法を使えないのは辛いだろう。でも「普通」のミラベルだからこそ、マドリガル家の問題を解決する鍵になれた。

 

家族の異端児や問題児は、一番立場が弱い存在である故に集団内のゆがみを浮き上がらせ、健全さの影に潜んでいるひずみや傷を癒すキーパーソンとなる。

 

ミラベルも例外ではない。家族の中で一人だけ「普通」の彼女は、魔法を使えないというマドリガル家の外では当たり前の価値観を一族に運び込んでいる。役立たずとして扱われることもある反面、義務やプレッシャーも少ない。実はもう1人の異端児としておじのブルーノがいるけど、彼は魔法が使えるために家族の縁から逃れられない。

 

ミラベルは家族の中で、唯一魔法というしがらみから自由な存在だ。だから周囲が村のため家庭のために忙しくしている中、カシータが壊れ始めている原因探しに奔走することができた。

 

他のみんなができることができないのは、逆に彼らができないことができるのを意味する。ミラベルは魔法が使えないからこそ、細かい所に目を向けられる。

 

アントニオのお祝いに家族と村人たちが浮かれる中、1人だけ家に入り始めている亀裂と魔法の源のロウソクの火が弱まっていることに気が付いた。皆が何事もないように日常を過ごす中、ルイーサの目に出ていたストレスのサインを見逃さなかった。それは魔法に頼れない彼女だからこそできたのだ。

 

異端児は家族を再生へと導く

ミラベルは失踪したおじのブルーノに会い、姉のルイーサとイザベラが本当の気持ちを出せるようになるのを手伝う。彼女の行動こそ、家庭に一人はいる「変わった子」の役割。集団をかき乱すことで風通しをよくして、新たな価値観を吹き込んでいく。

 

その姿にアルマが怒りを露わにする。彼女の考え方の良し悪しはさておき無理はない。自分が必死に築いて守ってきた家族の虚像を暴かれそうになっているのだから。

 

アルマが魔法と家に固執してしまっている以上、カシータは一度壊れ、魔法が消えてしまう必要があった。このままでは限界が近付いていることを彼女に理解させなければならなかったのだ。家が崩壊する様子を見るのは、コロンビア内戦によって住処を追われ夫を殺されたアルマにとっては過去に負った傷をえぐる光景だったろう。でもそうでもしなければずっと変わらなかったに違いない。

 

カシータの崩壊によって、アルマは授かった魔法の力を大事にするあまり、家族に負担を強いてしまったことに気づいた。そうなってしまった経緯と思いをミラベルに明かすことで、初めてマドリガル家の在り方を見直すことができた。本当に大事なのは魔法ではなく家族だし、自分が大変な時は村人たちに頼ってもいい。

 

魔法(ギフト)が使えないミラベルは、普通だからこそ家族が隠しているに正面から向き合い、もう一度カシータと絆を立て直すきっかけとなった。マドリガル家は以前のような開かれたようで閉ざされた家族ではない。自分たちの長所も短所も受け入れ、魔法の一族として村を助け、村人たちの助けを借りながら生きていく。カシータとマドリガル家は、ミラベルのおかげで生まれ変わることができたのだ。

 

ミラベルの魔法(ギフト)

ミラベルは魔法が使えない異端児と説明したけど、実は彼女にはカシータと直接つながる魔法が授けられたのではないだろうか。カシータの異変にいち早く気付いているし、本音を明かしたイザベラと和解すると家の亀裂が直ったりと、家の状態は彼女の心を表している。

 

マドリガル家の者は各自が自分の空間を持っていた。カシータ自体が彼女を表しているとしたら、魔法の扉が存在する必要がなかったのも納得がいく。最後にミラベルが家のドアノブをはめた時には扉が光って魔法が復活した。だからミラベルのギフトは何かをするというより、直接家につながっていることじゃないだろうか。

 

あとミラベルはもう1つのギフトを持っている。それは誰かの心に寄り添える力。

 

その力があるからこそ、ルイーサを負担や能力を失うことへの恐れ、イザベラを常に完璧でいなければならないプレッシャーから解放させることができた。従弟のアントニオも、優しいミラベルが大好きだ。そして最後には、悲しい経験から魔法と家に固執してしまっていたアルマの心を解放した。

 

一般人でありながら能力者や権力者に寄り添える人はそういない。ミラベルはとても素敵なギフトを持っている。