ヴォクス・マキナの伝説 本気で大人向け!波乱のハイ・ファンタジー

 

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手に汗握る冒険に魅せられ、思いきり笑って泣ける熱い王道ファンタジーを観たい。そんあななたにアマゾン・プライムで配信中の『ヴォクス・マキナの伝説』をお勧めする。テンポよし、キャラは濃い、世界観も重厚でダークユーモアとゴアなバトル満載。こういう大人向けのハイ・ファンタジー待ってました!!

 

あらすじ

落ちこぼれ傭兵集団ヴォクス・マキナは金なし、宿なし、先の見通しもなし。切実に仕事が欲しい一行は、ウリエル国王が募集したエモン郊外の村々を襲撃した犯人(もしくは原因)を見つける任務を引き受ける。最初は金欲しさだった一行だが、惨劇を目の当たりにして世界を救えるのは自分たちだけと気付く。

 

TRPGのリプレイを元に作られた海外アニメ

『ヴォクス・マキナの伝説』はTRPGダンジョン&ドラゴン』(略称:D&D)をプレイするアメリカのプロの声優集団クリティカル・ロールのセッションを元に作られた大人向けの海外アニメだ。TRPGとは(テーブルトークRPG)の略語。ゲームマスターと呼ばれる役割を務める人がルールの管理役と進行役、他の参加者がキャラクターを作りプレイヤーとして参加するアナログ版のRPGゲームだ。

 

一般的なゲームと同じくTRPGにも様々な作品があり、中でもD&Dは1974年に発売されてから現在では第五版まで出ているロングセラーだ。それを全力でプレイするクリティカル・ロールの実況中継が人気となり、クラウドファンディングによってアニメ化が実現したのが本作だ。それぞれのキャラクターをゲームで演じた声優がそのまま役を担当し、ゲームマスターも実際に脇役の一部に声を当てている。

 

好みがわかれる作風

大人が本気で楽しんだセッションを元に作られた本作は、18禁に全振りしている。物語の開始5分で視聴者を振るいにかけると言っても過言ではない。初登場は酒場。パーティーのほぼ全員がノリノリで一気飲みに興じ、酔ったまま(約1名は文字通り吐きながら)喧嘩を売ってきた相手と乱闘を始める。この英雄とはかけ離れたお世辞にも上品とは言えない姿に、早くもついていけない人はいるだろう。

 

戦闘シーンも容赦がない。邪悪なドラゴンや巨人、亡霊の集団、グロテスクな生き物などが次々と襲い掛かり、パーティーを1話につき最低1回は全滅必須の危機に陥れる。戦い方も全身に敵の血しぶきを浴びる、人体を真二つにスライス、巨人の両眼に手を突っ込んで潰す、酸の中に全裸で飛び込むなど流血沙汰がかすり傷に見えるレベルだ。

 

こんな世界観なので「今まで殺した一番変なモンスターのエピソード」といった不謹慎な笑いが緊張を和らげてくれる。もちろん下ネタ満載。主人公のスキャンランからして、国中の人と寝たがる自他共に認める変態ノームなのだ。

 

Fワードはもちろんのこと、隙あらばゲロ、うんこ、全裸、暴言、飲酒、その他あらゆる汚いネタが放り込まれる。タマ殴りゲームという字面だけで股間が痛くなるゲームも健在だ。こうして書くと下品な大人向けコメディと思われそうだが、真の魅力はそれ以外にある。

 

大人の葛藤と成長

本作最大の魅力は大人たちの成長物語だ。成長譚は子供や若者だけのものではない。全員が25歳以上のヴォクス・マキナの仲間は冗談や毒舌を飛ばしながらも、その陰では各々が苦悩やトラウマを抱えている。

 

双子のハーフエルフ兄妹ヴァクスとヴェクスは育ったエルフの里に苦い思い出がある。同じ種族のケイレスは、優れた自然魔法の使い手だけど自信がない。ノームで癒し手のパイクは力を授けてくれる神とつながりが切れたと感じ、スランプに陥る。彼女の幼なじみの半巨人グロッグはパイクとの別離に心を痛める。特筆すべきは人間の銃使いパーシー。凄惨な過去のトラウマによって復讐に魂が飲み込まれそうだ。

 

現に人は成長しても悩み続ける上に意外と過去を乗り越えていない。子供の頃に夢描いた輝かしい姿とは程遠く、悩みや苦しみを抱えながら生きている。『ヴォクス・マキナの伝説』はそんな大人たちが仲間を支えに成長する物語だ。彼らは種族も出自もばらばら、その上にお互いの過去をほとんど知らない。それでも相手の話に耳を傾け、理解しようと努め、時に叱咤激励しながら助け合う。

 

「君には(俺の気持ちは)わからないんだ」と殻に籠るパーシーに「じゃ、説明して、わからせて」とパイクは声をかける。共感するのが難しいからこそ相手の気持ちがわかるふりをするのではなく、自分たちにはわからないことを説明してもらって理解しようとする。これが団結力も協調性もない凸凹パーティーが成立する一番の理由だ。

 

心の傷は完全には癒えない。自分に対する不安もすぐには消えない。だけどそれを共有して共に戦ってくれる仲間がいる。だからこそケイレスは自分の力を最大限に発揮できるようになり、パイクはスランプを乗り越え、パーシーは新たな一歩を踏み出すことができた。

 

こうした成長物語には、まだアイデンティが定まりきっていない子供やティーンとは異なる魅力がある。酸いも甘いも経験し、自己を確立しているが故に苦しむ姿は、大人が主役だからこそ描けるものだ。その姿には親近感が沸くし、悩んでいるのは自分だけじゃないと元気が出てくる。

 

全力で大人に向けたファンタジー

『ヴォクス・マキナの伝説』はアナログゲームを全身全霊で楽しむ大人たちによる大人のための海外アニメだ。苦手な人は苦手だけど好きな人はとことんハマる。決して万人受けしないけど、擦れた冒険者集団に不謹慎なジョーク、セクハラやラッキースケベの一切ない本格的な下ネタに笑える人。そして『指輪物語』をうんと人間臭くしたファンタジーが読みたい心には確実に刺さると保証する。

 

物語自体はすでに完結していて、一行の過去がシーズン2以降で深く掘り下げられるのは確定済みだ。オープニングと作中で示唆されたヴァクスとヴェクスの子供時代はとても気になる。一見悩みと無縁そうなスキャンランも過去に何かありそうだ。彼らの波乱に満ちた冒険を世界中の熱いファンと共に楽しもうではないか。