アウルハウス 1話 考察 変わり者であってはいけないのか?

注:本編のネタバレあり

目次

1. 個性を否定されているルース

2. 多様性を尊重するイーダと尊重しない番人

2.1 お尋ね者と社会規範の守り人

2.2 多様性を許容する人と拒絶する人

3. 自分と相手の個性を認めるルース

4. 変わり者でいいじゃないか

 

 ディズニー・チャンネルで放送されているアニメ『アウルハウス』は、普通の少女が異世界に行って魔法を勉強する王道のファンタジー。ちょっと不気味でユーモラスな魔法の世界の中にとても現代的なメッセージが込められている。

 第1話では、問題行動を直すためにサマーキャンプに行くことになったルースが、魔界ボイリング島に足を踏み入れる。魔女イーダと仲間たちや塔の番人との出会いを通じて、ルースは自分のロールモデルと生き方を見つける。人と違うのはいけないことか。個性を抑圧して周囲に合わせないといけないのか。冒険を通じてルースは答えを見つける。

 

1. 個性を否定されているルース

 ルースはとても個性的な子。自分の世界を持っていて、好きなものがはっきりしている。本物のヘビや花火を使ったリアル志向なプレゼンテーションをやろうとする、劇でお腹を切られたら腸に見立てたソーセージが出る仕掛けを仕込む、はく製を使って生きた蜘蛛を吐き出すグリフィンを作る。芸術は爆発だ!と言わんばかりにクリエイティブだ。

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=The_Owl_House_S01E01_-_A_Lying_Witch_and_a_Warden_32.png

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=The_Owl_House_S01E01_-_A_Lying_Witch_and_a_Warden_38.png

 

 残念ながらルースの長所は周囲に理解されていない。変わり者扱いされて友達はいない。親と先生からも個性伸ばすのではなく、「普通」になるように求められている。プレゼン用のヘビが校長先生にかみついたのをきっかけに’Think Inside The Box’(型にはまって考える)ことを教えるキャンプに行かされることになってしまった。

 

 確かにルースの行動には問題がない訳ではない。同級生たちをパニックに陥れることで、人に迷惑をかけている。迷惑な行為をやめさせて常識的なふるまいを教えるのが、大人としての責任かもしれない。

 

 でも本当にそれが正しいのだろうか。子供の行動を欠点とみなしてやめさせるのではなくて、どうすれば長所として伸ばせるかに視点を向ければいいのに。よかれと思って矯正することで、いい所も一緒に潰してしまうんじゃないだろうか。

 

 現にルースは大好きなお母さんの言葉で、ほんの一瞬とはいえ愛してやまないファンタジー小説をゴミ箱に入れてしまう。そうやって社会に溶け込むのと引き換えに、すばらしい長所を捨てざるを得なかった子供たちはきっと少なくない。

 

 現実の世界は多様性が大切だと言いながら、多数派が認めない個性は消されてしまう。人間界でルースは自分らしくいることを許されない。

 

2. 多様性を尊重するイーダと尊重しない番人

 自分のファンタジー小説を取っていったフクロウを追いかけて、ルースは魔界のボイリング島に足を踏み入れる。そこで魔女イーダと妖魔のフーティとキング、そして塔の番人に出会う。イーダと番人は同じ魔界の住人でも正反対の大人。対照的な二人は物語の対立構造「個性を尊重するか抑圧するか」を体現している。二人と接することで、ルースの行く先は大きく変わっていく。

 

2-1. お尋ね者と社会規範の守り人

 イーダは自称「ボイリング島でいちばん強力な魔女」。人間界で拾ったガラクタや自分で調合した薬を売っている。窃盗罪や違法な魔法を使ったことその他諸々の理由から指名手配されていて、追手や元カレを避けるために町はずれにある「アウルハウス」に妖魔のキングとフーティと暮らす。

 

 社会規範に従わないアウトローで、恐らく収入も安定していない。それどころか指名手配までされている。社会のルールから逸脱した存在のイーダは、「良識的」な大人が子供に関わらせたくない存在かもしれない。

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=The_Owl_House_S01E01_-_Eda_Standing_on_Table.jpg

 

 塔の番人は文字通り、魔界にある塔の番人。思想や嗜好が普通ではないと判断した住人達を容赦なく逮捕し、塔の牢屋に閉じ込めている。指名手配されているイーダを追っているが、一度も捕まえられたことがない。

 

 イーダとは対照的に、番人は社会規範を守る存在。指名手配者を追う警察みたいな役割も果たして、部下の信用も厚い。安定した地位の仕事に就いて一般社会に溶け込んでいる。ルールや常識をきちんと守る大人で、子供たちの手本にされるのは彼のようなタイプだろう。

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=The_Owl_House_S01E01_-_A_Lying_Witch_and_a_Warden_190.png

 

2-2 . 多様性を許容する人と否定する人

 性別や社会的地位が異なる二人は、自分と考え方が異なる人への態度も大きく異なる。

 イーダは様々な個性や価値観の人々を受け入れて、相手が大切にしているものを尊重している。

 妖魔キングの王冠を取り返す代わりに人間界に戻すと約束されたルースは、イーダとキングと一緒に番人が管理している塔に侵入する。危険を冒して取り戻したキングの宝物は、人間界のファーストフード店でもらえる紙の王冠だった。

 「この王冠は何も力を与えないでしょ」と困惑するルースの意見を認めた上で、イーダは語る。

 「ほら、キングもあたしも居場所がないし、仲間はお互いしかいない。だからだからあいつにとってあの馬鹿げた王冠が大切なら、あたしにとってもそうさ。それに、あたしたちみたいな変わり者はお互いに協力しないと」

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=Sg2p7O2NEyU.jpg

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=Sg2p7O2NEyU.jpg

 

 イーダは人間その他の生き物が異なる個性を持つのを、まぁこんな奴がいてもいいかと受け入れている。そして一人ひとりが違うからこそ協力できることは協力する。彼女は真の意味で、多様性を許容し尊重する魔女だ。

 

 それに対して塔の番人は、異なる価値観の人を受け入れようとしない。食材同士のssを書く、再生する自分の目玉を食べる、陰謀論を信じる、といった変わり者の住民たちを、社会の多数派と価値観が違うというだけで捕らえて塔の牢屋に投獄している。自分が受け入れられない人を拒絶するだけではなく、彼らを従わせるためには手段を選ばない。

 

 イーダの売っていたテレビを壊したり、直接的な描写はないけど、自分に反抗した囚人に暴力を振ったことを伺わせる描写がある。キングの王冠を取り上げて目の前でぐしゃりと潰すなど、力ずくで相手を従わせていた。

 

 「これはお前ら全員への見せしめだ。社会に溶け込めなければお前たちに居場所はない」と囚人たちを脅す言葉から、マジョリティに合わせようとしない人たちの存在を許容しない姿勢がはっきりと伝わってくる。

 

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引用元: https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=VUcLAwTPD-U.jpg

 

 塔の番人は自分とは価値観が違う人たちの存在を否定する。彼らを問題視して、力ずくで自分が正しいと信じるマジョリティの側の価値観に従わせようとしている。彼は多様性を否定し、異なる考え方の者がいること自体を受け入れていない。

 

 社会のはぐれ者であるが故に多様性を受け入れて尊重するイーダと、社会の規律を遵守するからこそ多様性を退ける塔の番人。二人の対比は人がそれぞれ異なることを前提に協力し合う現代の理想の生き方と、集団や共同体の中で定められた「常識」に合わせるのを要求される従来の生き方の対立を表している。同時に、自分らしさを大事にするか個性を抑えるか、二つの間で迷うルースの分岐点でもある。そしてイーダと出会うことでルースは自分の道を見つける。

 

3. 自分と相手の個性を認めるルース

 人間界のルースにはお手本にできる人がいなかった。現実世界の大人たちは悪い人たちではないけど、決して理解者であったとは思えない。

 お母さんはルースに惜しみなく愛情を注いでいるけど感性が多数派寄りの人。ユニークな娘が孤立するより、社会に溶け込んで友達を作ってほしいと願っている。学校の先生はルースの問題行動をやめさせることだけに焦点を置いている。人間界の大人たちは彼女を愛しているけど、本当の意味では理解していない。ルースはどんな人を目指せばいいかわからず、ただ大人に従うことしかできなかった。

 

 イーダと出会いによって、ルースは初めてロールモデルにできる人に出会った。イーダは彼女が今まで接した経験がないタイプの大人の女性だった。型破りなお尋ね者で、自分がやりたいように生きている。でも様々な価値観や個性の人と生き物の存在を認め、仲間が好きな物も大事にする。彼女の言動に触れることによってルースはどんな人になりたいか決めた。それは自分の個性も相手の個性も大切にして、お互いに協力し合う人。

 

 ルースは「普通」になって社会の多数派に合わせるのではなく、自分らしくいることで他の人たちを勇気づけて協力し合えると気づいた。だから逃げる意欲を奪われた囚人たちを助けて奮い立たせ、みんなでイーダとキングのピンチを救ったのだ。

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=Bunch_Of_Giraffes.jpg

 

4. 変わり者でいいじゃないか

 約束通り人間界に返してもらえることになったルースは、自分の意志でイーダを師匠に選んで魔界に残ることを選ぶ。個性を否定されていた少女は、自他の個性を受け入れる大人に出会うこと自分の生き方を見つけた。そして社会の鋳型にはめられる場所ではなく、変わり者の自分が生き生きと暮らせる環境を選ぶ決断をした。

 

 私たちは多かれ少なかれ、他の人と変わっている。人と違う価値観を持っていることでいじめられるなど辛い思いをするかもしれない。でもルースが言うように、人と違った物の見方ができるからこそ、私たちは素晴らしい。現実には自分に合った場所を見つけるのは簡単ではない。でもあきらめずに探し続けたら、いつか受け入れられる人や場所に出会えるかもしれない。世界のどこかに居場所がきっとあるはず。

 

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引用元:https://theowlhouse.fandom.com/wiki/A_Lying_Witch_and_a_Warden/Gallery?file=Hugs4.jpg