ヴォクス・マキナの伝説 シーズン2 感想 

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シーズン1からファンが首を長くして待つこと約1年、『ヴォクス・マキナの伝説』シーズン2、全12話が公開された。開幕から王都がドラゴンたちに襲撃されてスリルがフルスロットルの第2章。手に汗握る展開と骨太な物語には、映画ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』から興味を持った人も、こだわりが強いファンタジー愛好家も大満足まちがいなし!

 

あらすじ

王都エモンはドラゴンによって破壊された。邪悪なドラゴン集団クロマ・コンクラーベから世界を守るべく、ヴォクス・マキナは伝説の武器ヴェスティッジ・オブ・ディバージェンスを探す旅に出る。一行の波乱の道中は思いがけない出会いに満ちていた……

 

尋常じゃない恐ろしさのドラゴン

古今東西の西洋ファンタジーにお約束と言っていいほど登場するドラゴン。本作では巨大で火を吹いて町を破壊するなんてかわいく見えるやつが登場する。D&Dには様々なレベルのドラゴンが登場するが、これは最強クラスだ。

 

王道の炎を吐くやつはもちろん、回数無制限で透明化できて大量の酸を吐くドラゴン、毒ガスを吐くドラゴン、一瞬で人や物を凍り付かせるドラゴン。剣と魔法では手も足も出ない怪物たちが容赦なくタルドレイの町を破壊し、逃げ惑う人々の肉体を溶かして虫けらのように殺戮する。

 

ウリエル国王もその他大勢も容赦なく殺された。39年前に出版されたD&Dのセッションが原作の小説ドラゴンランスで酸や毒ガスを吐く竜の描写を読んだことはあるが、実際に映像化すると鳥肌が立った。ホビットの冒険のスマウグにさえあんなに恐怖を覚えたことはない。西洋ではドラゴンが悪の権化として描かれることが多いが、その真骨頂を見せつけられた。

 

広がるエクサンドリアの世界

ドラゴンに立ち向かう旅に伴い、一行は様々な場所を訪れる。古代都市ヴァッセルハイム、異世界フェイの国、エルフの都市シンゴーン、ウェストラン、火のアシャリが暮らすパイラ……王都エモンとホワイトストーン以外の場所が数多く登場し、エクサンドリアの世界が一気に広がっていく。

 

どの場所も特色豊かで画面からその場の空気感が伝わってくるほどだ。湖底の神殿に満ちた湿気、整っていながも溢れるシンゴーンの活気、薄暗い酒場のむせるような空気。映像で伝わらない感覚を刺激され、一緒にその場にいる錯覚に陥るほどだった。

 

 

白熱するバトル&前作を上回る下ネタ

ヴォクス・マキナの旅には世界の命運がかかっているのだ。モンスターとドラゴン相手に剣に魔法、銃と拳にマジックアイテムを駆使した総力戦が繰り広げられる。武器をはめた切断されかけの片腕をもう片方の手でちぎるケヴダヴの捨て身の戦いには、敵ながら思わず彼に奮い立ち雄叫びをあげた。

 

今シーズンに特筆すべきは武器を使わない戦。肉体は傷つかないが一歩間違えれば致命的な戦いが繰り広げられる。因縁の相手との交渉や、心の傷に付け込む相手など血肉沸き立つバトルとは別の意味で緊迫感に満ちた戦闘が繰り広げられる。特にヴェスティッジを守る古代生物スフィンクスとスキャンランの対決は必見だ。

 

もちろん、なんと言っても魅力的なのはドラゴンとの闘い。全滅必須の覚悟であらゆる作戦を使い迎え撃つが、極めつけは内から外に殺そうと黒竜アンブラシルの肛門から体内に入る試み。かれこれ長い間ファンタジーオタクをやってきたが、ドラゴンの尻穴と腸を見たのは人生で初めてだ。向こうもちっぽけな生き物に尻から突っ込まれるとは思ってもいなかっただろう。

 

ドラゴンの肛門のインパクトからもわかるように、下ネタとパロディも衰えるどこかレベルアップ。天然の幻覚成分でラリれば見える奇妙奇天烈な光景。思わず声に出して歌いたくなる作中歌。緊迫したバトルの途中ですらこれでもかと笑わせてくる。

 

特にフェイの国の神出鬼没な獣人ガルミリーには、思わず描いたアニメーターの心境に思いを馳せてしまった。誰があの場面を担当したか知らないが、尻と肛門とブツを描くためにその仕事に就いたのではなかっただろうに。

 

自分と向き合う一行

ここまで穴だの尻だの連呼しているが、ヴォクス・マキナの神髄は大人の成長物語だ。一行は旅の道中で自分自身と、中でも自身の傷と向き合わざるを得なくなる。本作では特に前シーズンで専らパーシーの過去の清算に力を貸していた仲間に焦点があてられていた。

 

父親から常に否定されて育ち、その辛さに正反対の方法で対処しつつ苦楽を共にしたヴァクスとヴェクス。良心の芽生えをきっかけに元いた半巨人集団から捨てられ、その後もかつての自分の行いに良心の呵責を感じていたグロッグ。それぞれに異なる試練が訪れる。

 

そしてスキャンランの新たな一面も垣間見えた。ふざけた変態ノームはその見かけとは裏腹に本物の愛に飢えている。普段の姿はその裏返し。構ってほしいから下品な言動に走り、相手に捨てられるのが嫌だから関係を持っては自ら振るのを繰り返す。

 

逃げてばかりだった彼は、ついに自分に、そしてドラゴンに対峙せざるを得なくなる。逃げる自体は悪いことではない。むしろ自分を守るためには賢明な判断でもある。王都をドラゴン集団が襲ったときも、黒竜アンブラシルの攻撃を受けて瀕死のグロッグを見たときも「もう撤退しよう。もう十分だろ」とスキャンランは言う。その判断は向こう見ずではなくなった大人のそれだ。

 

でも、時には目の前にあるものを受け入れざるを得ない。敗北が目に見えながらもアンブラシルに立ち向かい、倒されていく仲間たちの窮地を目の当たりにしたスキャンランはようやく自分を奮い立たせた。ギリギリまで逃げようとしながらも、最後には覚悟を決めて巨大な竜と対峙する姿は人間臭くも最高にかっこいい。

 

迎え撃つは波乱の道

『ヴォクス・マキナの伝説』シーズン2では逃げてきた大人が自分の運命を直視する。ある者は自分に立ち向かい、別の者は使命に目覚める。過去を清算して前に進む者もいれば、まだ対峙できる自信がない者もいる。一行はそれぞれ迷い苦しみ、待ち受けるものの大きさにひるみながらも覚悟を決めた。酸いも甘きも経験した者は彼らの葛藤に胸が熱くなるだろう。

 

残るドラゴンはあと3頭。クロマ・コンクラーベはいまだ世界に君臨し続け、アンブラシルより強力なドラゴンばかりが待ち受けている。謎多きリプレーの行方もわからないまま。TRPGセッションでプレイヤーと視聴者を爆笑の渦に巻き込んだあのシーンも観たい。これでも物語のアクセルはまだ踏まれたばかり。波乱に満ちた冒険譚の続きが待ちきれない。

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